父がいた頃
師走の町を歩いていたら、ふと父のことを思い出した。私の父は船乗りで、ほとんど盆暮しか家に居なかった。だから、夏休みに釣りをしている姿とステテコで高校野球を観ている姿、年末に買い出しをしている姿と正月に友人を呼んで麻雀をしている姿ばかり覚えている。ふと思い出したのは、アメ横まで買い出しに行って食材をたくさん抱えて帰って来た父の姿。船に何ヶ月も乗っている間にコックに習うせいか、父は料理が得意だった。お煮しめなどは母や伯母が作り、私は昆布巻きなどの下ごしらえに参加して、父は魚をさばく役、メイン料理を作る役をしていた。畳を上げて干し、障子を張り替え、大晦日の家は木枯らしが通り抜けて寒かった。それはそれで昭和の時代らしい風景だけど、あの風景の中心には父がいたのだと、師走の雑踏の中でふと思い出していた。
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